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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)3152号 判決

原告 見須奈早苗

被告 安田信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 山口吉雄

右訴訟代理人弁護士 渡邊昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、求める裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和六〇年二月二七日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は、被告の負担とする。

3. 1につき仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、主張

一、請求原因

1. 原告は、被告(取扱店新宿支店)に、昭和五七年三月四日までに渡辺早苗(原告の旧姓)名義一一一万円、見須奈徳太郎名義一五六万円の各貸付信託(以下本件各貸付信託という。)をし、同日当時右各債権を有していた。

これら貸付信託債権が原告に帰属することは、以下の事情から明らかである。

(一)  原告は、昭和四九年八月一六日から昭和五七年五月二〇日まで訴外渡辺政男(以下政男という。)と婚姻関係にあり、従って昭和五七年三月当時原告は渡辺早苗と名乗っていた。また、見須奈徳太郎は、原告の兄の子であって昭和四八年一月四日生の年少者であるところ、原告とは毎年交際があるものの、政男とは交際関係はない。

(二)  原告は、右婚姻前及び婚姻中稼働して収入を有し、また実母からも送金を受けていたところ、本件各貸付信託は、これら収入から原告が全額出捐したものである。

他方、政男は、昭和五一年六月一日から電気工事店を自営していたものの、働こうとせず、途中から生活費も出さない程であった。

(三)  本件各貸付信託の手続は、申込書への署名も含め一切原告がし、その後通帳届出印鑑とも原告において管理し、昭和五七年一月以降は銀行の貸金庫に保管しその鍵を原告が所持していた。

2. 本件各貸付信託は、昭和五七年三月二〇日には満期が到来するか又は信託後一年以上を経過していたため、被告は、信託者から請求を受けた場合、信託の際の約定より、償還に応ずるか、又は満期前のものについては買取ったうえ代金を交付すべき義務があった。

3. 原告は、昭和五七年三月二三日、被告新宿支店に赴き、本件各貸付信託金の支払を請求したが、被告はこれを拒否した。その後、原告は、同月三一日、同年四月一日、同年五月初め等と再三右支店に赴く等して支払を請求したが、被告は、右渡辺早苗名義分につき同年五月四日まで、右見須奈徳太郎名義分につき同年八月二〇日まで支払を拒否した。

4. 被告の責任

(一)  原告は、昭和五七年三月二三日、本件各貸付信託の通帳届出印鑑を持参のうえ支払を請求したから、被告において、原告が権利者であることを知り、又は知らないとすれば過失があった。

(二)  被告が支払を拒否したのは、政男が昭和五七年三月、本件各貸付信託を自己のものと主張して支払を停止するよう要請したからであるとしても、右(一)の事実の他、左に述べる事実からすると、被告は本件各貸付信託が原告のものであることを知っていたか又は知らないとすれば過失があった。

(1) 原告は、支払請求時、1(一)ないし(三)の事情及び原告が昭和五六年一二月以降政男と別居中であることを被告担当者に説明し、かつ原告の給料明細書、実母から送金を受けた際の現金書留用封筒等を示した。

(2)(イ) 原告は、政男と婚姻前から被告と取引関係にあり、しかも被告における原告との取引担当者は、訴外南雲康夫又は小津栄という特定の従業員であって、右従業員らは原告と面識を有していた。本件各貸付信託の手続を原告自身がした際の被告担当者も、これら従業員であった。

(ロ) 原告は、支払請求の際、右(イ)の事実も被告担当者に説明したが、被告はこの点の調査をしなかった。

(3) 政男は、昭和五六年一二月に原告が別居した後二か月半被告に自己が権利者である旨連絡せず放置していた。しかも、政男は、支払停止の要請にあたり、先ず、被告に残高証明を求めた。また、政男は、六取引口座の支払停止を求めたが、現実には三取引口座あるのみであった。これら経緯からして、被告は、当然、政男が権利者であることに疑念を抱くべきであった。

(4) 被告は、政男に対し、本件各貸付信託資金の出所、収入等につき何ら質問又は調査をしなかった。

5. 被告の右不法行為によって、原告は左のとおり財産上の損害及び精神的苦痛による損害を蒙ったが、その総額は七〇万円に達する。

(一)  被告の支払拒否によって、原告は、生活費及び子の政之の治療費等を捻出するためサラリーマン金融業者である訴外高橋博から二五〇万円を月三分の高利で借受け、右利息の約一年分である九〇万円を支払うことを余儀なくされた。

(二)  被告の支払拒否によって原告の生活設計が狂わされたばかりではなく、本件各貸付信託金受領のため被告とたびたびの折衝を余儀なくされ、遂には勤めを断念せざるを得なくなった。

6. よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金七〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年二月二七日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1のうち、被告(取扱店新宿支店)が、昭和五七年三月四日までに、渡辺早苗名義一一一万円、見須奈徳太郎名義一五六万円の貸付信託の受託をしていたこと、原告が昭和五七年三月当時政男と婚姻関係にあり、渡辺早苗と名乗っていたことは認めるが、その余の事実は不知。

右両名義貸付信託の明細、信託日、払出日等は別紙取引経過一覧表(以下別表という。)のとおりである。

2. 同2の事実は認ある。

3. 同3のうち、原告が昭和五七年三月二三日、被告新宿支店に赴き、本件各貸付信託の一部につき支払の申出をしたが、被告が支払を拒否したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4.(一) 同4(一)のうち、原告が、昭和五七年三月二三日、本件各貸付信託の一部につき証書届出印鑑を持参のうえ支払を請求したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)冒頭の事実は否認する。

(三) 預金契約ないし本件のような信託契約は、金融機関の窓口において行われる大量取引であり、各取引の都度権利者の確認をしないのが通常であるうえ、名義人と手続をした者、出捐者が異なることもあるので、真実の権利者が誰であるかについて紛争が生じた場合、真実の権利者の確定は容易ではない。

(四) 被告が、本件各貸付信託をした経緯は次のとおりである。

昭和五七年三月四日、政男が被告新宿支店を訪れ、次のとおり説明して本件各貸付信託につき支払停止を申入れた。即ち、政男は原告の夫であるところ、右各貸付信託は、いずれも政男の稼働収入からの出捐によって信託した旨、政男は電気工事の仕事をしており日中は殆ど家を空けるため銀行取引の手続は妻に任せることが多かった旨、現在妻と離婚の調停中であるが、妻は預金類通帳と印鑑を持出して別居した旨説明した。また、右申入にあたり、政男は運転免許証、東京家庭裁判所の調停期日指定書を示してその身分及び事情説明の証とした。

これにより、被告は、政男の申入が全く根拠のないものではないと判断し、本件各貸付信託債権の帰属に関する夫婦間の紛争が解決するまでの間一時支払を停止する措置をとった。

ちなみに、本件各貸付信託がなされたのは別表のとおりであっていずれも原告が政男と婚姻した後であり、原告が婚姻前に被告に受託したものが切換又は更新されたものでもない。右各貸付信託の設定手続は、うち一九回は店頭で信託され、残りの六回は収益配当口の金銭信託から振替えられたものであり、昭和五三年一一月二二日信託の見須奈徳太郎名義分は、被告における政男名義金銭信託からうち四万一〇〇〇円、渡辺早苗名義金銭信託から一万九〇〇〇円を各振替えられている。更に、本件各貸付信託のうち渡辺早苗名義分は、被告が受託していた政男名義貸付信託と同一印鑑が使用され、顧客番号も同一であった。ところが、昭和五七年二月二二日、原告の申出により渡辺早苗名義分につき住所及び通知先が変更され、顧客番号も政男分と分離し別の番号が付けられた。この直後に前記のとおり政男からの支払停止申出があった。

(五) 右に述べたとおり、本件のような貸付信託については一般に紛争がある場合の権利者の認定は容易ではないこと、原告の夫政男から支払停止の申入がなされたこと、その説明内容等、本件各貸付信託の信託状況に照らすと、被告において本件各貸付信託が原告のものと認めず支払停止をしたことはやむをえない措置であった。

(六) 債務不履行責任と不法行為責任との関係について請求権競合説の立場をとっても、本件各貸付信託のような金銭債務の不履行については、銀行が信託者に打撃を与えることを目的として合理的理由もないのに信託金の支払を拒絶した等の特段の事情があれば格別、債務不履行の場合の法定利率又は約定利率による請求以外はなしえないものと解すべきである。従って、被告は、本件各貸付信託につき支払日までの約定利率による金利即ち満期償還分については満期まで年七・七二パーセントの割合、満期後の普通預金同率年一・七五パーセントの割合による額、満期前買取の場合、右七・七二パーセントの割合による経過日数に応じた額から約定の買取割引額即ち一万円につき一九〇円を控除した額を支払っており、これを越える原告の請求は理由がない。

5. 同5の事実は不知。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、被告が、昭和五七年三月四日までに、新宿支店において渡辺早苗名義一一一万円、見須奈徳太郎名義一五六万円の各貸付信託(本件各貸付信託)の受託をしていたこと、右各貸付信託については、昭和五七年三月二〇日には満期が到来するか又は信託後一年以上を経過していたため、被告は信託者から請求を受けた場合、信託の際の約定により、償還に応ずるか又は満期前のものについては買取ったうえ代金を交付すべき義務があったことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、本件各貸付信託の明細、信託日、払出日は別表のとおりであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、〈証拠〉によると、本件各貸付信託は、原告が自己のために信託をしたものであったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、右各貸付信託債権は原告に帰属するものであったというべきである。

三、1. 原告が、昭和五七年三月二三日、被告新宿支店に赴き、本件各貸付信託の一部につき支払の請求をしたが、被告が支払を拒否したことは当事者間に争いがない。

証人藤田光宏の証言によって真正に成立したものと認められる乙第二、三、六号証の各写、同証言、原告本人(第一回)尋問の結果によると、原告は、昭和五七年三月二三日、被告新宿支店に赴き、別表のうち同月二〇日満期の貸付信託三口合計三〇万円につき自己が権利者である旨主張して支払を求めたが、被告は昭和五七年三月四日、当時原告の配偶者であった訴外渡辺政男から、渡辺早苗名義の貸付信託につき支払停止の要請を受けていたため、これを拒否したこと、その後、原告は、右新宿支店に対し、同年四月一日等数回支払請求を繰返したが、いずれも拒否されたこと、原告は、同年四月下旬頃、原告の長男政之が病気により多額の治療費を要する事態が生じたこともあり、被告新宿支店に、本件各貸付信託全部につき自己が権利者である旨主張して支払を請求したが、被告は、政男から右要請に追加して、昭和五七年四月一三日、見須奈徳太郎名義の貸付信託につき支払停止の要請があったため、右支払を拒否したこと、被告は、本件各貸付信託のうち渡辺早苗名義分については同月二八日まで、見須奈徳太郎名義分については同年八月一〇日頃まで右支払停止の措置を続け、その頃原告への支払に応ずることを決めて原告に通知したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2. 被告が、右支払拒否を、原告が本件各貸付信託の全部又は一部の権利者であることを認識していたにもかかわらずしたものと認めるに足りる証拠はない。

3. そこで、被告が、原告からの支払請求に際し、受託者として、原告を権利者と認識するために相当な注意を尽したかどうか、右注意を尽さなかったため原告を権利者と認めえなかったかどうかについて検討する。

(一)  本件のような銀行の受託する貸付信託は、預金と同様、名義人と真の権利者が必ずしも一致しないことがあり、特に家族間の名義借用も多いことから、本件のように配偶者から権利の帰属につき異議が出された場合、銀行としては、権利者の認定に困難を伴うところである。しかし、権利者、特に自己の名義で権利を有している者の側からみると、将来、当然銀行から支払を受けうるものとの強い信頼のもとに権利を設定しているのであるから、右信頼を保護するためには、右のように権利の帰属に異議が出された場合についても、銀行は、支払請求者や異議者の身分確認、証書や届出印鑑の所持関係の把握のみならず、支払請求者及び異議者に対し適切な質問を実施し、或は権利設定の経緯を調査し、もって支払請求者が権利者であるかどうかの把握に努めるべき注意義務があったというべきである。以下、本件について検討する。

(二)  〈証拠〉によると以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

政男と原告とは昭和四九年八月一七日婚姻し、以後同居していたが、昭和五六年一二月下旬からは別居状態となり、昭和五七年五月二〇日離婚した。右婚姻の間原告の氏名は渡辺早苗であった。

政男は、昭和五七年三月四日、被告新宿支店に本件各貸付信託の一部につき支払停止の要請をした際、自己の運転免許証及び原告との間で係争中の東京家庭裁判所における調停期日指定書を各提示して自己の氏名及び原告の夫であり原告と離婚するかどうかをめぐり紛争調停中である旨説明し、自己、渡辺早苗、見須奈早苗、渡辺政之(原告と政男間の子)、見須奈君江(原告の母、正しくは見須奈君枝)、見須奈一夫(原告の兄)名義の信託、預金の残高照会をし、被告から断わられると、更に、原告との生活においては、自己が働いて収入を得ているものの、原告に収支管理、銀行取引を任せている旨、ところが原告は一月ぐらい前に通帳、印鑑類全部を持って家を出た旨、従って右持出された物の中に政男に帰属すべき預金類にかかる通帳、届出印鑑等が入っており、被告新宿支店にある右各名義の信託、預金は政男に帰属するものと考えられる旨の説明をして右各名義貸付信託の支払停止の要請をした。

政男は、昭和五七年四月一三日、被告新宿支店に対し、原告の甥である見須奈徳太郎名義の預金、貸付信託は原告が手続したものの、政男の資金によるものである旨説明のうえ支払停止の要請をした。

他方、原告は、昭和五七年三月二三日支払請求の際、同年三月二〇日満期の渡辺早苗名義の貸付信託にかかる、その後本件各貸付信託全部につき支払請求した際は、右全部にかかる各証書と届出印鑑を持参しこれを提示した。被告新宿支店の担当者はその際原告が名義人本人であることを認めた。

原告は、その後、同年四月二六日頃まで貸付信託の支払につき被告と折衝したが、その際被告に対し手持ちの資料を提示したうえ、原告自身仕事上及び仕事外の種々の収入があり、これら原告自身の収入から本件各貸付信託をした旨説明した。

被告は、右当時、原告又は政男に対し、双方の収入、本件各貸付信託の資金につき積極的には質問せず、また本件各貸付信託の設定経緯について調査しなかった。

(三)  しかし、原告が、被告に対し、本件各貸付信託の設定と時期及び金額において符合する等により右信託の資金の出所を推認させる程度の原告自身の収入または財産の移動を証する資料を被告に提示したことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  また、〈証拠〉によると以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和四九年二月、被告従業員の訴外南雲康夫と知合い、その縁で被告銀座支店に貸付信託したが、これは昭和五二年二月八日新宿支店に移した後昭和五四年一二月被告に買取らせて消滅させた。

本件各貸付信託は、原告が政男との婚姻前から被告において有していた預金信託等権利を切換え又は更新したものではなく、右婚姻後に他の銀行預金等からの返済金又は原告の手持資金により設定されたものである。

原告新宿支店には、昭和五一年一一月以前から渡辺政男、渡辺早苗各名義、昭和五三年四月以前から見須奈徳太郎名義の取引口座が設定されていたが、見須奈早苗、見須奈君江、見須奈一夫各名義の取引口座は存しなかった。右渡辺政男、渡辺早苗両名義取引の届出印鑑は、「渡辺」と記された同一の印鑑であった。

(五)  右(二)、(四)の各認定事実及び三1の事実に照らすと、渡辺早苗名義貸付信託については、被告は、原告が名義人本人でありしかも右証書及び届出印鑑をもって自己が権利者である旨主張し、支払請求をしていることを認識していたところ、政男の申出中には権利者であることに疑問を抱かせる残高照会や存在しない名義の取引口座の支払停止要請もあったことから、政男の申出にかかわらず、一応右貸付信託につき原告が権利者であるものと推測しえなかったわけではない。しかし、そのように認めるには、右事実のみではなお不十分というべく、更に原告と政男の言分、貸付信託設定の経緯をも合わせ検討を要するものである。被告は、原告及び政男の双方に、貸付信託の資金の出所等につき積極的に質問を尽さなかったものの、双方から事情説明を受ける等しているから、それ以上に質問すべきであったとはいえないところ、右結果からは、原告への権利の帰属を推定しうるとはいえないのみならず、政男が残高や取引口座名をも知らなかったことも不自然とはいえない。次に、被告は本件各貸付信託の設定経緯を調査すべき注意義務を尽していない。しかし、本件各貸付信託は、いずれも原告と政男との婚姻後設定され、しかも右婚姻前に存していた原告の被告における権利の切換又は更新ではなく、また、被告新宿支店における取引口座中政男名義と渡辺早苗名義のものの届出印鑑は同一であった。以上の諸点に照らすと、仮に被告が本件各貸付信託の権利の帰属につき注意義務を尽したとしても、前述の積極的要素にかかわらず、被告において渡辺早苗名義の貸付信託が原告に帰属するものと認識しえたとはいえない。

他に被告において、注意義務を怠ったため原告を右権利者と認識しえなかったものと認めるに足りる証拠はない。

見須奈徳太郎名義貸付信託については、原告が右証書、届出印鑑を提示し、これにつき自己の資金による旨の説明をしたこと、被告は右名義人が原告の甥であることを認識していたことは前述のところから明らかであるが、これが原告以外の者の名義であること、政男の説明及び原告と政男との婚姻時期と権利設定時期との関係に照らし、被告において注意義務を尽したとしても原告を権利者として認識しえたものとはいえず、他に被告が注意義務を怠ったため、原告を権利者と認識しえなかったとはいえない。

4. 以上によると、本件各貸付信託の支払拒否につき被告に故意又は過失があったとはいえないから、被告に責任があるとはいえない。

三、よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高田泰治)

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